社会人になってから、サマルカンドのレギスタン広場という場所を知り、いつかあの青の世界に行ってみたいと思うようになった。
JICA海外協力隊としてルワンダ派遣中に、旅行でタンザニアに行ってからは、「一番行きたい国はどこ?」という質問には「ウズベキスタン!」と答えるようになった。
行きたいところへは、行けるうちに。
(↑コロナが私たちに教えてくれたこと)
今から約2年半前、「協力隊を終えて日本に帰国して1年間働いたら、ウズベキスタンを旅しよう」と決めた。
ルワンダからの帰国間際、JICAのスタッフさんと話す機会があり、その方が元ウズベキスタン隊員だったと知った。ウズベキスタンに行こうと思っていると話すと、たくさんのことを教えてくれた。
そこで、ウズベキスタンの『スザニ』の存在を知り、刺繍が趣味である私の心は大きく惹かれた。

よかったら、刺繍・裁縫アカウントも覗いてみてください☺︎
レギスタン広場に加えて、スザニも、ウズベキスタンへ行く大きな理由となった。
スザニとは
スザニとは、ウズベキスタンの伝統刺繍のこと。
刺繍を施した布地は、娘の嫁入り道具にする。だから、家に娘が生まれると、一家の女性たちが協力して刺繍していたそう。娘が生まれてから嫁ぐ日まで、ひと針ひと針に想いを込めて。
なんだその伝統は。素敵すぎる。行くしかない。
調べてみると、ウズベキスタンの中でもスザニで有名な地域はいくつかあるようだった。旅程的に、サマルカンドからアクセスのよいウルグットへ行くことにした。
ウルグットへのアクセス
ウルグットにあるバザールはスザニで有名で、通称“スザニバザール”とも呼ばれるそうだ。
ウルグットへは、サマルカンドから向かう。

まずは、ウルグット行きのマルシュが出ているカフタルホナ・バスターミナルへ。
サマルカンドで滞在していた宿からヤンデックスでバスターミナルまで向かい(約128円)、そこでウルグット行きのマルシュに乗った。
念願のスザニと出会う
ウルグットバザールに着いたら、とりあえずスザニが売っているらしいゾーンへ向かった。

この門が見つけられたら、あとはまっすぐ進むだけ。
Googleマップでも「スザニバザール」と検索すると出てくるので、ここを目指して行けば到着する。



スザニバザールに到着。
【スザニバザール】
- 曜日:火、水、土、日
- 時間:〜14:00(変動あり)
※私たちが行ったのは水曜の11:00頃。水曜は小規模との情報があったが、たくさん開いていた。朝何時から開いているかは不明。15:30〜16:00頃には、スザニ以外のお店も閉まっているところが多かった。
ちなみに、スザニバザールの近くにはトイレもあるので長居しても安心。(清潔レベルはまあまあ低い)


有料で1回3,000スム(約33円)

どのお店の人もフレンドリーで、たくさん見せてくれるし、どんどん広げてくれるし、写真も撮らせてくれる。中には少し日本語が話せる人もいた。それほど、日本人に人気なんですね。

壁かけのような大きいものや、クッションカバー、トートバッグ、ポーチなど、いろんな種類があった。

糸にも艶があり、色とりどりで美しい。

中には機械で作られたものもあるが、ほとんどが一つ一つ手縫いだそう。縫い方も、縫い針刺繍とかぎ針刺繍の2種類があるそうだ。

バックパックの重量もあるし、この先あと数ヶ月旅は続く。当然、荷物は増やしたくない。お土産を買うつもりはなかった。スザニも、見るだけのつもりだった。

でも、スザニを見ているうちに、「買いたい」と思った。
自分が刺繍をするからこそわかる、この手間。
一体これを作るのに、何時間かけたのか。どれだけの想いを込めたのか。
ここに並ぶ一つ一つは、単なる商品ではなく、“作品”であり、“想い”だ。
お金を払う価値は、十分にある。
お買いもの
すっかり「見る」から「選ぶ」に視点を変えて店を見て回った。
値段は交渉次第だが、クッションカバーで10ドル、大きい壁掛けのもので100ドルほど。できるだけ軽い、小さめのクッションカバーを探すことにした。
柄は好きだけどサイズが大きすぎたり、気に入ったけど劣化していたり。コレ!という一点を見つけるのはなかなか大変だ。
何軒目かに入ったお店でも、いろいろと見せてもらったり写真を撮らせてもらったりした。そして、ファインダーから覗いているときに、こう思った。
「この人から買いたい」


そう思ったのは、なぜだろう。
やさしい話し方と、ゆったりとした動き。がつがつしていない上品な雰囲気、聖母のような暖かい眼差し。日本のおばあちゃんを重ねたからだろうか。はたまた、撮りたい写真が撮れたからだろうか。ただ何となく、惹かれるものがあった。


迷いに迷って、3つに絞った。我が家の会計係の許可が下りたので、2つ買っていいことになった。バックパッカーは、荷物は少ない方がいい。これを2つ買う代わりに、服を1着捨てるつもりだ。
「この人から買いたい」そう思ったおばあさんと、小さいサイズを出してくれたおばあさんのお店から一つずつ選び、合計2つ買った。値段は、2つで17ドル。(約2,456円)

まさかのお誘い
スザニを購入し、記念に2人のおばあさんと写真を撮って、最後に、Google翻訳を使ってこう伝えた。
「わたしはスザニを見るためにウズベキスタンに来ました。刺繍が大好きです。」
今までに作ったものや、製作しているときの写真を見せた。


そうすると、運よくそこに居合わせた英語が話せる青年が、おばあさんが言いたいことを通訳してくれた。
「彼女は、「うちへ来ますか?」と言っています。」
その青年を通して詳しく聞いてみると、彼女はスザニが好きな観光客を家に招いて、スザニを作る様子を見せたり、体験してもらったりするのが好きで、それをビジネスではなくおもてなしとしてしているとのこと。店を閉めた後、家へ来ないかと誘ってくれたようだ。
そのとき12:00過ぎ。店を閉めるのは16:00頃。
4時間待ちか…。
迷っていると、「せっかくならお邪魔しよう。」と我が相方。
こうやって言ってくれる相方でよかった。
予定や期限のない旅でよかった。
おばあさんの名前はアミーナオパ。(ウズベキスタンでは女性への敬称として「オパ」をつける)彼女の仕事が終わるまで、ウルグットバザールで時間を潰すことにした。
楽しすぎたウルグットバザール散策
とりあえず、腹ごしらえにバザールの食堂へ。

プロフ30,000スム(約334円)
あまり油っぽくなくて美味しかった。

大鍋で作っているところも見ることができた。

地元の人たちが集まっている。

かわいい布屋さんもあった。ウズベキスタンが旅の最終目的地だったら、大量買いしていたかも。危ない。

ウルグットバザールの人々は、みんなフレンドリーすぎるほどフレンドリー。

写真もたくさん撮らせてくれた。

サマルカンドのノン。ぴっかぴか。

野菜を買ったお店。

中央アジアのお菓子、「ハルヴァ」
基本1キロ単位みたいだが、一つだけ買いたいと言ったらお裾分けしてくれた。ラフマット。

味のある景色。

なかよしおじいさんズ。かわいい。

なかよしおじさんズ。

「あいつも撮ってみな!」

「やっほー」

にこにこおばあちゃん。この後一緒に写真を撮った。
ここの人たちは本当にフレンドリーで、通路を通るだけでにこにこしてくれた。それに、よく声をかけてくれるから、いい意味で全然前に進めない。
「写真撮って」「次はあいつ(近くにいる人)も撮ってみて」「日本人?」「おお、日本人!?いいね、日本好きだよ」「一緒に写真撮ってくれない?」こんなポジティブな絡みの嵐。
ウルグットバザール、楽しすぎ。
1ヶ月以上中央アジアを旅してきて、いろんな国の、それぞれの街のバザールに行ったけど、ここが一番楽しかった。スザニを含め、もう、ウルグットの虜です。
家でスザニ作りの様子を見学
16:00前にアミーナオパのお店に行くと、ちゃんと待ってくれていた。


店を閉め、ミニバスで一緒にお家へ向かう。

到着。豪邸でびっくりした。

なんと食べ物まで用意してくれた。

アミーナオパの妹さんやお孫さんも一緒に、お茶をして少し休憩。

作りかけのスザニを持ってきてくれた。こうやって、布に下書きをして、一つ一つ縫っていくんだな。


手作業をする職人の手は、美しい。

糸も、自分たちの家庭で染めるそう。シルクの糸は、光沢があって美しい。

伝統的な糸の巻き方。

普通の縫い方だけでなく、少し変わった方法も見せてくれた。


帰る前、夕飯のプロフまで出してきてくれた。

なんと、最後にはお土産。飾りのパーツを手作業で縫い付け、ストラップをつけてくれた。

売り物にしていないスザニがある部屋も案内してくれた。

絨毯のように大きい!

会話の中で、アミーナオパたちが馬を飼っていることにびっくりしたら、帰る前に馬を放牧している丘に寄ってくれた。

丘の上に上り、みんなでオレンジに染まる空を眺めた。
今日の出来事が、この出会いが、まるで夢だったんじゃないかと思ってしまいそうな、幻想的な空だった。
私たちは、たまたま通りかかり、たった数ドルのスザニを買っただけ。(しかも少し値切った)どうして、初対面の外国人にこんなに親切にしてくれたのだろう。不思議だった。こんなおもてなしをして、アミーナオパたちに何のメリットがあるのだろう。
きっと、メリットとか、損とか得とかそんなことじゃなくて、ただ、“人”が好きで、“スザニ”が好きで、“ウルグット”が好きなんだろう。
この日のことを、きっとずっと忘れないだろう。
こんなに素晴らしい経験ができて、旅に出て本当によかった。
スザニに重ねる想い
冒頭で、JICAのスタッフさんがスザニについて教えてくれたと話した。
その方とちゃんと話すのはその日が初めてだったが、私が刺繍が好きだと知って、こう言ってくれた。
スザニは、娘が生まれてから結婚するまで、娘のことを想って大切に縫うものなんですよね。長い時間をかけて、ひと針ひと針想いを込めて作るんです。だから、もえさんも刺繍をするということは、時間をかけて誰かを想える人なんだと思います。
私はこれを聞いて、不意に泣きそうになった。(情緒不安定なやつみたいになるので必死に堪えた)
こんな風に言ってもらうのは初めてだった。
刺繍が好きで、結婚・出産した友達へのお祝い、お世話になった人へのお礼など、今までいろんな人に作って渡してきた。別に、褒めてもらいたいとか感謝してほしいとか、そんなんじゃなくて、ただ、渡したときの、相手が喜ぶ顔を見るのが好きだった。(みんな見事にいいリアクションしてくれるから)
手刺繍は、時間がかかる。機械じゃないから「効率よく」なんてない。出来栄えは、かけた時間と労力に比例する。刺繍しながら、贈る相手のことを考える。喜ぶ姿を想像する。そうやって、ひと針ひと針縫っていく。
でも、そんなこと別に誰かに言わないし、自分も好きでやっていたので、よく考えたことはなかった。だから、言葉でそう表現してくれて、自分でも気に留めていなかった部分を理解してもらえたというか、労ってもらったというか、そんな風に繋げて考えてくれるんだと思って、グッときてしまったのだろうと思う。
うまく言えないけど、とりあえず、めちゃくちゃ嬉しかった。
というわけで、憧れのスザニを生で見ることができ、素敵な出会いもあり、最高の1日だった。
正直、スザニが目的なら、わざわざウルグットまで行かなくても、サマルカンド、ブハラ、ヒヴァなどの主要観光地で目にすることができる。値段も、ウルグットより安いかもしれない。でも、私はウルグットへ行って、アミーナオパから買ったスザニに意味があると思っている。
「何を買うかより、誰から買うか」
これに尽きる。クリエイターとして(いつからクリエイターになった)、肝に銘じよう。
今は旅に出ていて針を刺す機会はないが、また、どこかに落ち着くときにはゆっくり刺繍をしたい。というか、アミーナオパの家で引きこもって刺繍する生活したい。
ウルグットでは、刺繍だけでなく人々にも魅了され、「ここに住んでみたい」とさえ思った。
いつかまた、お礼を持って帰ってくるよ。ウルグット。

コメント